読書:濱口桂一郎『若者と労働』

いまでは通俗化した感のある「ジョブ型・メンバーシップ型」という言葉も、私の身の周りでは、濱口氏の本意から乖離した意味で使われる事例が散見される。用語の乱用は避けたいところだが、日本企業の風土を理解する上で格好の視座を与えてくれる。本書は学校―会社のトランジションを主題とする。

(以下読書メモ)

序章

オイルショック後の日本の雇用対策は中高年向け  欧米の若年雇用対策

フリーターやニートの出始めた2000年代初頭 無職状態は若者の意識の問題

2003年「若者・自立挑戦プラン」 ―日本の若者雇用対策はここ10年の歴史しかない

「学校から会社まで」の移行システム ある時期まで若者の就職を容易に

1990年代後半以降「入社」システム縮小 非正規化する若者 批判言説 正社員でも問題が顕在化

 

第一章 「就社」型社会と「入社」型社会

1 「ジョブ型」社会と「メンバーシップ型」社会

「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の原点

誰も理解していない日本型人事管理の理由

人事管理ないし賃金管理そもそも職務(job)に対して、人をどのように貼り付けるかに関連するもの

2種類の「人」と「仕事」の結びつけ方 「仕事」ベースに「人」を選定 「人」ベースに「仕事」は緩やか

日本では「職業」の地位はほとんど確立されていない 「社員」というレッテルをぶら下げた労働者が大半 今後さまざまな仕事を遂行する潜在能力を重視(具体的な仕事に限定されない)  年齢、学歴、人間性で判断

「ジョブ」ありきの「ジョブ型」/「メンバー」としての「人」ありきの「メンバーシップ型」日本の労働社会の特徴

2 どのように会社に「入る」のか?

学卒者の就職を保証する日本の新卒定期採用方式 特定の時期・年齢層に限定

適宜有資格者、経験者を必要人数のみ採用する欧米諸国の欠員補充方式 日本のように「入り口」が定まっていない

アジア諸国は欧米型

3 日本の法律制度はジョブ型社会が原則

日本の法律では「社員」は出資者の意味の言葉 委任や雇用などのどの契約も一方が労務供給、他方が報酬を支払う 労働者は団体のメンバーとしてではなくそれぞれの取引関係に基づいて働く法律はジョブ型社会を前提 労働法も同様

職業安定法では職業紹介は「職業」を紹介することになっている

4 「入社」型社会の形成と展開

明治期 間接管理体制 工場の親方が必要に応じて雇い入れ 日露戦争前後 直接管理体制 企業による直接採用が主流

第一次世界大戦後 強烈な労働争議のなか、子飼い職工中心の雇用システムが形成 定期採用制の主発点

第二次世界大戦期 採用規制の強化(学校卒業者採用の許可制、青少年雇入制限令)

戦後 公共職業安定所が原則新卒者の紹介を行う 新規中卒者の定期採用制度 学校から企業への「間断のない移動」システムが構築される

1960年代高校進学率急上昇 職安から高校へ職業紹介の担い手が変わる 学校経由の就職がブルーカラー層にまで拡大新規高卒採用制度の確立と変容

1990年代景気後退と大卒者の増加 新卒高卒者への求人が激減 かつて高卒者が就いていた下級ホワイトカラー職・ブルーカラー色に大卒者が進出 大学で何を学んだかより、企業は大卒者の「学校歴」に関心を持つ

5 「入社」を前提とした日本型採用法理

「ジョブ」型の原則で作られた法律と「メンバーシップ」型の原理で構築される現実のギャップ こうしたギャップを埋めるため、裁判所は判例法理(解雇権濫用法理や広範な人事権法理など)を確立

戦後の日本型判例法理は広範な採用の自由を認めている(他の先進諸国とは対照的) 会社の「メンバー」を選抜する際、職業能力とは関係の無い属性による差別が当然視されている

6 周辺化されたジョブ型「就職」

ハローワークは誰のためのもの?

大卒者たちのマッチングは中卒・高卒のようにパターナリズムな保護下にはないものの、職業安定法が想定している「適格紹介の原則」とは全く異なる 学生の「就活」は「職探し」ではない

 

第2章「社員」の仕組み

1 定期昇給は何のため?

年功賃金制=初任給+定期昇給 企業外部の労働市場でポストの「値段」が決まる「職務給」

第一次世界大戦後、大企業で定期採用制と定期昇級制がはじまる

伍堂卓雄の生活給思想 労働者の家族を扶養するに足る賃金を支払う 戦後の賃金体系にも受け継がれる

1969年日経連『能力主義管理 その理論と実践 日経連能力主義管理研究会報告』 年功制を高く評価 職務遂行能力に基づいた昇進管理・賃金管理を奨励

職務給=職務評価によってもとづいて各職務の重要度、困難度、責任度などによって職務等級を定め、職務の等級に応じて算定し支給する給与項目

職能給=職務を遂行するうえで要する能力を一定の査定基準で評価し、支給する給与項目

2 時間と空間の無限定

労働時間は無限定 労働時間に関わる賃金体系があるだけ

いざというときのクッションとしての残業

自分の仕事と他人の仕事の不分明 社員全員の仕事が終わるまで残業

勤務場所も無限定

3 社内教育訓練でスキルアップ

ドイツとその周辺諸国で行われる公的教育訓練中心の仕組み

現実の日本社会 「人」に「仕事」を貼り付ける 社内教育訓練中心の仕組み OJTが主流

ジョブローテーション 人事異動+OJTで多様なスキルを修得させる

4 リストラは周辺部と中高年から

非正規の問題が若者雇用と関連づけられて論じられたのはここ10年の話

日本型フレクシキュリティ=常時解雇可能な主婦パートと学生アルバイトの柔軟性(フレクシビリティ)+夫や父親の高賃金と雇用の安定性(セキュリティ)

80年代まで問題意識が持たれなかった(整理雇用の四要件などの判例法理)

戦後日本で行われたリストラは中高年が標的(希望退職募集など)

seniorityrule(先任権制度) 欧米では解雇される順番に適応 日本では賃金の決定に用いる

若者雇用対策の要らなかった日本社会 新卒採用では何の知識も無い「まっさら」な人材であることが重要 人件費のかさむ中高年労働者がリストラのターゲットであり、ある時期までは安上がりな労働力の若者まで及ばなかった

 

第3章 「入社」のための教育システム(

1 「就職」型職業教育の冷遇

「役に立たない」者にしないための「ジョブ型」社会の職業教育システム

教育の職業的意義(レリバンス)が日本は著しく低い

1960年代職業教育の重点化・多様化が推進 経営側の職務給から職能給への転換と高校進学率の上昇などの理由により1970年代職業教育は後退 職種と職業能力に基づく近代的な外部労働市場の確立1973年以降企業内部での雇用維持、偏差値至上主義から職業高校の価値が下がる

2 「入社」型普通教育と一元的能力主義

「地頭の良い」労働力を供給する普通教育 学校と社会を貫く「偏差値」という一元的能力主義

3 会社型生活保障を前提とした親がかり教育費

教育が一種の「消費財」と見なされていたからこそ、公的教育費負担は貧弱で、親の生活給でまかなう仕組みが成立していて、その結果教育の職業的意義は希薄化()

4 職業的意義なき教育ゆえの「人間力」就活

ジョブ型社会の「職業能力」就活では入学よりも卒業証書の取得が効力を発揮

90年代以降の大学進学率上昇と『新時代の「日本的経営」』 入社システムの縮小と「人間力」重視の就活

5 「人間力」就活ゆえの職業なき「キャリア教育」

本来的な意味でのキャリア教育は特定の職業を前提として職業観・勤労観や技能を身につけるもの 日本のキャリア教育はその前提すらない 「正社員」であることを是とする

6 教育と職業の密接な無関係

日本型雇用と教育カリキュラムの相互補完的 潜在能力を学力などの代替指標で保証し企業に新卒一括採用システムを通じて「受け渡し」され、職場でのOJTで職業能力を身につけさせる回路

大学教育自体を職業教育に転換する必要性

 

第4章 「入社」システムの縮小と排除された若者

1 日経連『新時代の「日本的経営」』の実現と非実現

「長期蓄積能力活用型グループ」…再定式化された正社員モデル、総合職・管理職。技能部門のみに縮小、「成果主義」の反映により質的に高度化。

「高度専門能力活用型グループ」…専門部門(企画、営業、研究開発等)が対象。「必ずしも長期雇用を前提としない」ことと有期雇用契約であることとは論理的因果関係はないため違和感。「雇用柔軟型グループ」との境界が曖昧。『能力主義管理』にはないカテゴリー

「雇用柔軟型グループ」…パート型非正規労働者が再定式化されたもの。専門業務従事者も含む。報告書では具体的なイメージは示されていない

高度専門能力活用型を意図した法改正(労働契約期間の長期化、労働時間法制における裁量労働制の拡大) 主たる目的は雇用柔軟型の拡大と長期蓄積能力活用型の少数精鋭化、「高度専門能力活用型」は法改正のための当て馬だった?

2 バブル期のうらやましい「フリーター」

1990年代の排除された「フリーター」像は2000年代になってから認識される 90年代の当時は「夢見るフリーター像」が膾炙

3 バブル崩壊後の悲惨な「フリーター」

新規高卒者への求人数が大幅に減少、学校経由の就職が崩壊 大卒者への求人数も半減 フリーターの増加

若年雇用問題が噴出して10年余りもの間政策化しなかった最大の理由は、バブル期の自由な「フリーター」像が90年代を通して社会全体に膾炙し、現実の問題認識を困難にしていた

 

第5章 若者雇用問題の「政策」化

若者雇用問題がなかった日本

若者こそが労働市場で憂き目を見る欧米諸国

早期引退促進政策という失敗

ヨーロッパにおける若年失業者・長期失業者を念頭に置いた用法の「エンプロイアビリティ」 ⇔90年代末 日経連の用法では在職者を念頭に置く

若者雇用政策としての職業教育訓練と「エンプロイアビリティ」

ドイツのデュアル・システム座学と企業研修の組み合わせ、中世ギルド制に由来 近年は高等教育でも普及 生徒・学生は実習先の企業に就職するとは限らない

日本の雇用政策はジョブ型だった!

ジョブ型若者雇用政策の導入

高度経済成長期 ドイツやスイスを見習い技能検定制度の導入 企業横断的職種別労働市場の形成を目指す 日本でジョブ型雇用政策が行われた時代 1970年代メンバーシップ型に転換

1990年代メンバーシップ型雇用政策からの脱却 1998年教育訓練給付

ジョブ型若者雇用政策の始動

若者雇用政策の出発点 2002年度未就職卒業者就職緊急支援事業が開始

2003年「若者自立・挑戦プラン」 キャリア教育・職業体験の推進、インターンシップ、日本版デュアル・システムの導入、ジョブカフェの設置などの政策

厚生労働省版日本版デュアル・システム 学校ではなく専修学校や公共教育訓練施設が教育訓練機関を担う(労働行政内の範囲だけでデュアルしようとしている) 企業内人材育成システムの一部を外部化しただけ

文部科学省版日本版デュアル・システム 短期間の企業実習

 

第6章 正社員は幸せか?

1 生活保障なき無限定社員-ブラック企業現象

2000年代末「入社」システム内部の問題が顕在化 「周辺的正社員」

ブラック企業問題の登場 ブラック企業現象と日本型雇用システムの密接な関係

往年の雇用システムにおいて、正社員の定年までの雇用と生活の保障という見返りと激務の交換取引 保障が欠落・見返りのない滅私奉公=ブラック企業現象のロジック

1990年代のパラドックス メンバーシップ型社会の「見返り滅私奉公」への批判+市場原理的ネオリベラリズム 福利厚生の抜け落ちた強い個人主義的ガンバリズムを生み出した

2 ジョブなき成果主義による疲弊

年功的な運用が為された能力主義は主観的な能力考課と情意考課+業績考課をもとに人事課によって査定される

90年代成果主義の普及 従来の年功制を否定

現実は職能資格を職務等級に括り直しただけの成果主義賃金制度(職能給から年功制を除いただけ) 中高年層の賃金切り下げに活用される

メンバーシップ型正社員への要求水寿の高まり白紙の学生に即戦力を要求する矛盾

就活によって全人格的評価に曝される若者は自己の内面否定 ブラック企業がはびこる一因

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