読書:スタニスワフ・レム『ソラリス』

ポーランド人のレムによる、異星人との接触を扱ったSF小説。この異星人は、赤い月と青い月が交互に照らす惑星ソラリスを覆う海の姿をしている。人類はこの異星人を発見して以来、長い年月をかけて接触を試みてきたのだった。しかしソラリスに反応はない。異星人との交流を求めて遥か宇宙にまで飛び出した人類だったが、宇宙は人類の想像を越える不可解さに満ちていた。

物語は心理学者のケルビンがソラリス・ステーションに向かって出発するところから始まる。ステーションはソラリスを観測するための施設で、ここには三人の研究者が滞在しているはずだった。
だがステーションに到着したケルビンを待っていたのは、施設の荒廃と、三人いた研究者のうち一人は自殺し、一人は自室に閉じこもったまま出てこないという奇怪な事実だった。このステーションで何が起こっているのか。ケルビンは少ない情報をもとに究明しようとする。そして彼の前に突如、何年も前に死んだはずの恋人ハリーが現れる。
ハリーらしき生命体を前にして、ケルビンは恐怖する。騙してロケットの中に押し込み、彼女を宇宙へと放出してしまう。しかし数日後、またしてもハリーは彼の前に姿を現した。

 

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アンドレイ・タルコフスキーの『ソラリス』は幻想的な視聴体験をさせてくれるが、いかんせん冗長ではある。勝手に睡眠導入映画に認定している。

 

やがてケルビンは、ハリーの出現はソラリスからの接触だということを知る。彼のみならず、ステーション内のほかの二人のもとにもソラリスからの<客>は来ているらしい。いまはいない研究者の自殺と<客>との間にも関係があったようだ。

ソラリスは人間の脳を直接覗くことのできる超高度な知性を有しており、人間の記憶のなかにあるもっとも強烈な人物イメージを具象化して接触してきていたのだ。だが何のために? その目的は? ケルビンは戸惑う。ソラリスと交流をもつことは決してできない。赤い月と青い月に照らされた海は静かに流動しながら、人間からの呼びかけに対して沈黙し続ける。その流れも凝視すれば、まるで肉体のひどくゆったりした痙攣のように見えてくる…。

異星人の登場する小説や映画はたくさんある。SFの多くにあるだろう。そこに描かれる異星人は人類とのいくつかの類似をもっており、ゆえに理解し合うこともさほど困難ではない。しかしソラリスは違う。ソラリスと人類との間にはまったく類似点がない(なんといっても相手は海の形態をした宇宙人なのだ)。類似点がなければ相互理解は困難をきわめる。
著者による解説的な文章が巻末の「訳者あとがき」に引かれている。

星と星の世界への道は、単に長くて困難なものであるだけでなく、さらに、それは、われわれの地球上の現実がもつ諸現象とは似ても似つかない無数の現象に満ちていると私は思う。宇宙は「銀河系の規模にまで拡大された地球」では決してないであろう。それは質的に新しいものである。

地球が宇宙のすべてではないのだということ。言葉の通じない外国人とはかる程度の難易度で異星人とコミュニケーションがとれるはずなど決してなく、そこにはわれわれ人類の想像など及びもつかぬ未知の世界が待っているだろうこと。この小説のもつ思弁性はそこにある。
ケルビンもまた、後半で述べる。
「われわれは……われわれはありふれた存在だ。われわれは宇宙の雑草だ。そして、自分らの平凡さが非常に広く通用することを誇りにし、その平凡さのうつわのなかに宇宙のすべてのものを収容できると思っている。そういう図式を信条にして、われわれは喜び勇んで遠い別の世界へ飛び立っていた。しかし、別の世界とはいったいなんだろう?」

見上げれば、遥かから瞬く星々をちりばめた無窮の夜空が広がっている。光が地球に届くまでに何光年もかかるため、現在はもう存在していない星もあるという。何とか星だの何とか座だのと人類は勝手に自分たちのものでもない星々に名をつけてきたけれど、この傑作小説を読んだあとではそんな人類の歴史が無邪気な児戯に等しく思えてくる。どうしたところで、宇宙は地球人のために存在しているのではないのだ。あんなにも美しい宇宙は、決して人類におかされない。そう思うと不思議と心が安らぐ。人類の無力さと小ささに、胸が静かになる。そういう思いに誘ってくれる小説が、好きだ。

(なお、わたしが読んだのは飯田さんによる旧訳版ですが、早川より沼野充義さんによる新訳も出ています。旧訳がロシア語からの重訳だったのに対して、新訳はポーランド語からの直接訳で、また削除されていた箇所も付け加わっているとのこと)

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